「命売ります」って衝撃的なタイトルだが、
良く考えると携帯小説のタイトルみたいだ。
さて三島由紀夫の作品は難しそうで読んでこなかったが
そのイメージを見事に裏切られた。
本作は超軽快なエンターテイメント小説。
まず主人公の名前が好き。
大手広告代理店の優秀な営業マン、羽仁男(はにお)。
働き盛りの二枚目だが、憂いを帯びた感じがまたモテそう。
そんな彼だけど、一瞬の出来事で人生の意味を悟り、自殺を決行。
しかし一度捨てた命を救われてしまい、予想外に生き残った羽仁男は、
新聞に「命売ります」の広告を出す。
訳ありの客たちが命を買いに来る、
つまり命を失う危険性の高い仕事を依頼に来るようになるが、
羽仁男は動じることなく引き受ける。そして何故か生き永らえてしまう。
この時の彼はとにかく冷静で大胆で捉えどころがない。
世俗を超越した存在のようでクールだ。
このように、羽仁男は最初命を容易く扱い、飄々とかっこよく動き回っている。
しかし最後は命に固執し狂人じみた姿が滑稽に描かれていて、
その高低差を容赦なく読者に突きつけてくるところがこの小説の読みどころ。
そういえばわたしは、人が自殺未遂をして、
人生を捉え直す過程を描いた話が好きだ。
「ベロニカは死ぬことにした」(パウロ・コエーリョ著)など。
平坦な自分の人生を、小説を通して見つめ直すことが出来るからか?
とりあえずこの本は、ほし5つでおすすめ。